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ニッポンの中のアジア まかりとおる推定有罪 #12 中国語の勉強をしています
 
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張さんからの手紙 Vol.12
拝啓

10月に入ってからはだいぶ秋らしくなってきました。朝夕の気温の変化も激しくなりつつありますが、いかがお過ごしでしょうか?

7月30日付けのお手紙に「この間、80日くらい咳と微熱が止まらず・・・」と書いてありましたので心配していました。私の場合は元々気管支が弱くて、冷たい風が吹く頃になると咳が出始め、春頃まで続きます。やはり薬をもらっても、全然効果がありませんので、自然に収まるまで放っておいています。

 それにしても80日くらいも病んでいらっしゃったとは、ずいぶん重かったのではないでしょうか。新型インフルエンザなどの重病ではなかったのでよかったです。
送って下さった中日辞典有り難うございました。

まわりに中国人受刑者はたくさんいますが、普通語を流ちょうに話す人はなかなかいません。ほとんどが福建出身で学力も低く、ピンインすら読めないほどです。 私は日本語を正式に学校で学んだわけではなく、日本に来て生活しながら耳で覚えたものでしたので、発音や助詞の使い方、敬語などは全く出来ませんでした。

 今回の事件で拘束され、拘置所の中で日本語の読み書きを学んだことで初めて発音の違いが分かりましたが、それを直すのに大変な努力をかけながら苦労しました。

 しかし、一度慣れてしまった発音を直すのはそう簡単なことではなく、今もジャとザ、ジョとゾ、ジとチ“などの発音の区別ができません。ブラジャー(brassiere)とブラザー(brother)を間違えて笑われたこともありました。 そういうことで、中国語も最初が大事だと思い、正しく発音する人に教えてもらいたいです。

 8月末までは、仲良くしていた台湾人(彼は3カ国語を流ちょうに話せます)に中国普通語の発音を教えてもらっていたのですが、彼が図書館に伝業することになってからは、独自でピンインに頼りながら勉強しています。

 通信教育制度を利用してCDプレイヤーで勉強しようとも考えましたが、文部科学省認定講座でないといけないらしく、(文科省に問い合わせたところ、中国語学習は認定したものがないらしいです)仕方なく会話集を見ながらやっています。

 学習教育より矯正に役立つものはないと思いますが、受刑者本人がやる気を出しても(それも自費で)文科省認定講座ではないことを理由で許可したいというのは、あまりにも形式を優先する官僚的思考ではないかと思います。

 処遇法をいくら改善しても、実質的には現場で働いている職員達の考え方が変わらなければ真の矯正は遠い話しに過ぎないのではないでしょうか。自民党保守政権下でつくられた名ばかりの刑事施設処遇法が、民主党新政権下においてはさらに改善されることを大きく期待しています。
明日(10月7日)は、刑務所最大のイベントである運動会が開催されます。

しかし、花よりダンゴと言いましょうか、「運動」よりは年1回味わえるコーラなどの特別食に皆感心が向いています。

 運動会と言っても、サッカーや野球などのゲームは「危険」を理由に許可されておらず、ほとんどが走りの協議ばかりですので、特別食だけが唯一の楽しみです。私も一応ドラゴンボールというボール運び競技に参加しますが、腰痛のせいでまともに走れるか心配です。もし優勝したら石けんがもらえるので頑張ります(笑)

 しばらくは過ごしやすい機構が続くと思いますが、1度ずつ雨が降る毎に冷え込みを感じる朝晩も増えてくるでしょう。どうかご健康で穏やかな日々をお過ごされることを心よりお祈り申し上げます。いつもありがとうございました。


敬具

2009年10月6日

無実の張禮俊
相変わらず向学心が旺盛な張さんだ。韓国語と日本語の発音の違いを認識して、「中国語も最初が大事と思い、正しく発音する人に教えてもらいたい」と書いてある。この考えは正しい。4声のある普通語(いわゆる北京官話)は、ピンインをしっかり覚えて発音とリズムをたたきこまないと積み上がっていかない。だから今でも中国語の発音を繰り返し独学しているが難しいこと。それでも高校時代から習ったフランス語の発音が北京語に似た部分があるのでちょっと助かっている。

 手紙の中に、福建省出身の受刑者の多くがピンインすら読めないという箇所がある。そう言えば、1997年、香港の九龍から北京まで二泊三日の鉄道の旅をしたとき、パスポートを検査しに来た鉄道公安員はローマ字がまったく読めなかった。私はパスポートのサインもローマ字だから、彼らは私の名がまったくわからなかった。この時、内陸部の学力が上海や広州とこれほど違うのかとびっくりしたものだ。

 向学心もままならぬ刑務所の生活は不自由この上ないだろう。自民党から民主党へ変わったことで、冤罪防止のための取り締まり可視化制度も動き出した。受刑者の処遇のうちあまりに理不尽な規則や現場で恣意的に運用されるような規則は改めてほしい。