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ニッポンの中のアジア まかりとおる推定有罪 #10
 
張さんが府中刑務所へ移った。
 
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張さんからの手紙 Vol.10
拝啓 春分の季節、今日は東京で桜が咲いたようで、ラジオのトークショーで騒いでいました。去年より一週間も早い開花らしいですので、そうとう気が早い桜だったのでしょう。

お久しぶりに手紙を差し上げますが、いかがお過ごしでしょうか?

私は下獄してから今月でちょうど半年になります。まだ刑務所へ移送されず独居室の中で手紙を書いています。

移送待ちのための臨時収容とはいえ、さすが半年間も厳正独居(昼、夜間独居)状態の生活が続くと心身ともに疲れを感じます。また、私にとって日本語はあくまで外国語でありますので、あまり使わない状態が続くとだんだん忘れてしまいますからそれも心配です。

長期囚の場合約6ヶ月くらいで移送されるらしいですので、恐らく近いうちに移送されると思っております。


さて、今日はひとつ残念なお知らせがあります。受刑者処遇法である「監獄法」が3年前に廃止され、そのかわりに「刑事収容施設及び被収容等の処遇に関する法律」という長い名称の新法が実施行されていることはご存じでしょう。

新法を立案する段階では100年ぶりの改正になることで、明治時代につくられた非人権的な処遇法を改善させることへの期待が大きかったのです。


実際、旧監獄法では認めなかった友人、知人との面会や書信のやりとりを認めることで、長期間の受刑生活の中で、すべての交友関係を絶たれたために出所しても頼るところがなく、結局再び犯罪に手を染めてしまう悪循環をなくそうとしたのも、新法立案の主旨の一つでした。

ところが施行から約3年になる今になって、突然、「親族や身元引受人以外の面会は一切認めない」という矯正当局側の一方的な通告がありました。その理屈の根拠として挙げているのが、新法第111条2項の記載です。


「刑事施設の長は、受刑者に対し、前項各号に掲げる者(つまり親族、弁護人など)以外の者から面会の申し出があった場合において、その者との交友関係の維持その他面会することを必要とする事情があり、かつ、面会により、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ、または受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがないことを認めるとき、これを許すことができる」


どうやら、「これを許すことができる」という表現に着目し、施設側の都合によっては許さなくても違法ではない、と解釈したようです。

施設の長の裁量をむやみに広く認めてしまうから、日本の刑事施設ではいまだに公務員による暴行や虐待などの反人権的犯罪行為があとを絶たないと思います。もちろん、拡大解釈が可能な法律を作る立法権者の方にも問題があると思いますが、何より、立法段階の精神や法案そのものの主旨をまったく理解しない法務省側と矯正当局の姿勢には強い怒りをおぼえます。

何か一般の人々に面会を求めることで、都合の悪いことでもあるのでしょうか?

タテマエでは「矯正教育」ととなえながら、いまだに「犯罪者の社会からの隔離」という懲罰的矯正製作の気晴らしから脱皮できないのが日本の矯正当局の現状です。

外部交通権の不当な制限は、決して許されるものではありません。

これは、受刑者に限らず、受刑者に面会しようとする一般国民の基本権をも侵す施設側の、裁量を越えた越権行為です。

残念ながら私には何のアピールをする方法すらありませんが、志ある方々の働きかけにより、理不尽な現実が改善されることを願うばかりです。

今日はお知らせの用件で特別許可をもらっていますので、他の用件は書けません。面会制限はおそらく刑務所に移送されても続くと思いますが、手紙のやりとりなどはこれまで通りですので、またお手紙を差し上げます。

春とはいえまだ朝夕の気温の差は激しいですので、くれぐれもご自愛下さい。

敬具

平成21年3月20日

               無実の張禮俊



追伸 身元引受人として、客野美喜子さんだけが面会を認められました。
3月に届いたお手紙をHPに載せるのが大変遅くなってしまった。

実はこのあと3月26日に、張さんは府中刑務所に移送された。突然予告もなく移送は行われるから、支援者にそのことが伝わるのに時間的なギャップがある。幸い、身元引受人になっている客野さんと、4月4日に行われたゴヴィンダさんの支援集会でお目にかかり、張さんが府中にいることがわかった。


客野さんはすでに面会にいらしたのだが、大変に規則が厳しい府中刑務所に移り、本人はショックだったそうだ。普通、外国人の初犯者は千葉刑務所に収容されるそうだが、なぜ張さんが府中へ移ったかはまったくわからない。毎日が軍隊生活のように規律、規律で、韓国の軍隊よりも厳しいともらしていたと客野さん。そのうえ、面会が制限されたのではストレスが溜まらないかと心配だ。ゴヴィンダさんがいる横浜刑務所でも同じように面会が厳しくなったとニュースレターにあった。

現在は、仕事の訓練で毎日忙しいらしいが、これまで以上に、手紙による激励が支えになるだろうから、時間を見つけてはお便りをしたいと思う。