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ニッポンの中のアジア まかりとおる推定有罪 #9
 
元気で袋貼りしています。時給は5円50銭
 
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張さんからの手紙 Vol.9
Merry Christmas !

先日頂いた11月28日付のお手紙は大変嬉しく拝見致しました。三寒四温を繰り返しているこの時期、ご健康のこと何よりと存じます。



さて、日頃ご心配下さるおかげさまで、私は元気に過ごしていますが、思っていたよりかなり長く移送待ち状態に置かれています。現在、どの刑務所もほとんどが定員オーバー状態らしく、以前より何倍も移送に時間がかかるらしいです。

とりわけ、私のような長期囚(8年以上)の場合は、長期刑務所に収容可能な所が見つかるのをずっと待たねばなりませんので、刑が確定して下獄されても、だいたい6ヶ月くらいは拘置所で移送を待たされています。刑務所から誰かが出所しないと収容スペースが空きませんが、頻発する凶悪犯罪に対し厳罰化に走ってしまったせいで、今はどこの施設も悲鳴を上げています。



長期化の場合、受刑者の人生を大きく狂わせる恐れが極めて大きいのに、あまりに軽々しく裁いて刑を言い渡している印象が否めません。

無期懲役の場合は限りなく終身刑に等しく、現在は平均30年以上を服役(それも無事故で)しないと仮釈放が認められないと言われています。

 無論、自業自得や因果応報という言葉で片づければそれまでの話しなのかもしれませんが、社会全体が担う分の責任までを彼らに押しつけているような気がします。犯罪の予防手段として厳罰を行使することは、主に後進国形法務行政で、一番下手と言われています。

犯罪者というのは、その時代,社会的環境により生み出される弱者であり、現在、この時代を生きている我々全ての責任であるはずなのに、まるで犯罪を犯した者だけをこの社会から抜き取れば済むと言わんばかりに、厳罰化を進めています。富の分配を公平にすることをあきらめ、社会のルールから逸脱する者には限りない厳罰で対応してきたアメリカの現状を見れば明らかなように、厳罰で犯罪を予防することは決してすぐれた政策とは言えないと思います。

 まあ、これだけの厳罰化が進んでいても社会的議論がほとんど聞こえてこないということは、大多数の国民が今の政策を指示している証でしょうね。悲しい限りです。



 下獄されてからは、受刑作業として紙袋作りをしています。寿司屋や高級店のミヤゲ用バッグなので、けっこういろいろ手間がかかって1日がんばっても100袋が限界です。

いちおう、無賃金の強制労働ならではの話しで、普通の日本の企業がこんなことをやっていたら、絶対に倒産してしまうでしょう。

無給と言ってもまったく無いわけではなく、作業奨励金として少し払ってくれます。

いくらでしょう??

時給 5円50銭です。

1日8時間きっちり働いて50円にもならない額です。

先月の分が支給されましたが、700円くらいでした(苦笑)

休日や入浴、運動、面会などの時間は全部差し引きなので、言葉通りの時給なのです。

いくら懲役とはいえ、文房具類や書籍、洗面道具、下着類と言った基本的な生活用品は自弁しないといけませんので、せめて生活用品が買える程度の金額は支払ってくれればいいと思っていますが・・・・



 今年も残り少なくなりました。ほんとうにいろんなことがあった多事多難な1年でしたが、たくさんの方々に支えられて師走を迎えております。

 とりわけ平野さんには文通を通じて限りない励ましと勇気をいただきました。

この誌面を借り、心より厚く御礼を申し上げますとともに、これからもどうぞ宜しくお願い致します。

 おそらく年内はここで収容されていると思いますが、移監されることになりましたらお知らせ致します。それではまたお手紙差し上げますので、ご自愛下さい。 敬具

平成20年12月15日

無実の張禮俊
無実の張禮俊さんへ

                                                                                                                                                   12月23日

 お手紙を有り難うございました。お元気そうなご様子で安心しました。

でも、毎日、お忙しそうですね。私たちが何気なく使っている飲食店などの紙袋も、服役している方々の手作りとは気付きませんでした。確かに高級店のものは取っ手がリボンだったり、マチが厚かったり、いわゆる大量生産品とは違います。だから、てっきり人件費の安い外国で作っているのかと思っていました。作業はいくつも種類があるのですか?

技術が身に付いて、後々役に立つような職種がよいですね、とはいえ、前向きに生きている張さんですから、何を体験してもきっと人生のプラスにしていかれると存じます。今後も自然体でポジティブな気持ちを忘れずに、日々をお過ごし下さい。

おっしゃるように、日本の世論は厳罰化に傾いております。来年の5月から始まる裁判員制度は、この傾向に拍車をかけるのではないかと憂慮しております。凶悪犯罪が頻繁に起こるようになったとはいえ、社会のひずみを直さずに、もぐらたたきのようなことをしても抑止の効果があるとも思えません。それなのに、なぜ厳罰化に向かうかといえば、みんな自分とは無関係なことと考えているからでしょう。だから短絡的な世論形成が進むのでしょう。私も、張さんとこうしてお手紙をやりとりして、犯人とされる側の現状を知ったからこそ、別の見方ができるようになりました。そうでないと、普通はなかなか複眼的に考えられません。

引き続きHPで公開をしていきますので、体験の中からいろいろとご意見を聞かせて下さい。

来年が張さんにとって より良い年となりますように、心よりお祈りしております!