平野久美子 TOP
ニッポンの中のアジア まかりとおる推定有罪 #7
 
9年10ヶ月という歳月の重み
 
バックナンバートップへ
#6へ
#8へ
張さんからの手紙 Vol.7
拝啓

今年は残暑が長く続くと言われていますが、このところ涼しい日が続いています。

お変わりなくいかがお過ごしでしょうか?

すでに客野さんの方からお知らせがあったと存じますが、8月20日付けで最高裁から上告棄却の決定書が送られてきました。文字通り決定でありますので、何故棄却するのかに対しては何の説明もなく、単に刑訴法405条の上告理由にあたらないことを理由に棄却すると言うことでした。

405条に規定されている上告理由とは、憲法違反と判例違反のみです。

しかし、あくまで刑事裁判の理念は無辜の発見と救済であり、また最高裁は最終審としての役割を担っている意味から、原判決に影響を及ぼす重大な事実誤認があって、これを破棄しなければ正義に反するとされるときは、最高裁が職権で調査して破棄できるよう、411条を別途に設けているのであります。

 本件のように、被告人が調査段階から一貫して無実を訴えている件に対しては、仮に有罪を裏付ける直接証拠が存在しているとしても、人間のやることに100%はないことを自覚し、各審査級ごとに慎重な事実認定の姿勢をとるべきではありませんか?

 ましてや検察官さえ認めている一審の乱暴な事実誤認をそのまま踏襲している控訴審判決を、何ら調査も行わずに上告趣意書のみを一目見て斬り捨ててしまったのです。

 これが今の日本の司法の現実なのです。

不法に逮捕、起訴され、裁かれている無実の者を裁判官が救わないと、いったい誰が救うのでしょうか

 こんな日本の裁判所に4年以上も独房の中で無実を訴え続けてきた自分が情けないです。



 控訴審判決のときには、信じ止まなかった裁判官に裏切られたショックがあまりに大きく、立ち直るまで一週間もかかりましたが、それからずっとマインドコントロールをかけてきたおかげで、今度は比較的淡々たる心境でおります。

 むしろこれで一区切りがついた感じで、これからははっきりした目標に向かって一歩づつ前進するのみです。

 私の身柄が檻の中にいると何もできませんから、とにかく一日でも早期に出所できるよう最善を尽くしたいと思います。残刑が9年10ヶ月も残っているのを考えると、本当に気が遠くなるような気持ちですが、今までやってきたとおり、また、一日一日を乗り越えられる勇気と力が?(*判読不能)されることを信じております。



 8月25日付で上告棄却決定に対する異議の申し立てを行いました。恐らく、9月初旬当たりに却下されると思いますので、それから検察官の執行指揮書が送られてくるので、2週間くらいはかかると思います。

 その間はまだ未決処遇のままでいることになりますので、いろいろ下獄後のことを準備しておきたいと思います。



 受刑者になると手紙の発信数を制限されることになりますので、以前より増してお返事が遅れるかも知れません。幸い、以前の監獄法が廃止されて、新法が施行されていることから、親族以外の知人にも手紙が出せるようになりました。しかし、毎日ではなく、一週間一通に制限されています。主に、客野さんと連絡をとることになりますが、初めて経験することになる刑務所の風景についていろいろご報告を差し上げますので、ご期待下さい(苦笑)



結局、こういう残念な結果になりましたが、いろいろ温かいご支援下さってほんとうに心から厚く感謝しております。善かれ悪かれ私には一生忘れられない人生最大の経験でしたので、できる限り、今後良い方向に役立てたいと思って頑張るつもりです。

これからはもっと厳しい環境で戦うことになりますが、今後ともご応援を下さいますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。

まずは、ご報告のことと御礼申し上げます。

敬具

平成20年8月27日

刑確定間近の独房から。無実の張禮俊より
上告棄却という残酷な知らせを、マインドコントロールを済ませて冷静に受け取ったとは何という精神力だろうか。 

もし私が張さんと同じ体験をしたらどうするだろう? わが身の不幸と嘆くばかりでなく、前向きに事態を考えるように努力できるだろうか?

人間の一生は、ほんとうにちょっとしたところで分かれ道がいくつもあり、ささいなことで大きく運命が変わる。張さんが日本で巻き込まれた殺人事件だって、細かくささいなことがいつしか運命を分けてしまったのだろう。


9年10ヶ月は十二分に長い。この歳月を物理的に考えれば、我が家の愛犬りきゅうは、確実にこの世にいないだろうし、私の寿命だってわかったものではない。それくらい長い。

 しかし一方で、人間は、時間の観念や概念を変えられる。意識して時間と向き合うか、だらだらと無目的に過ごすかで、その中身が変わってくる。長くもなれば短くもなる。幸い張さんは頭がいい人で、そのあたりがよくわかっているから、刑務所に引っ越してからも目的的に、一日一日を大切にして、負の体験を人生に活かすことができるだろう。今後どのように人生を切り開いていくか、張さんはすでに考えているはずだ。 


 張さんの傍聴に通い始めたのは、ゴビンダさんを支援する客野さんからのお誘いだった。無期懲役のゴビンダさんは横浜刑務所に入ってすでに5年目、現在、再審のトビラを開くために希望を捨てずがんばっていると聞いている。模範生だから、きっと早めの出所が許されるのではないだろうか。

 張さんも再審請求を視野にいれながら、一日も早く出所をして、同じような境遇で人権を侵害されている冤罪者の救援と真実の解明に向けて立ち上がってほしい。

 私も張さんを見習って、これからの9年10ヶ月を一日一日大切に、張さんたちのような冤罪被害の方々のことを忘れずに意識して過ごそうと思っている。