平野久美子 TOP TOPICS JORNEY TAIWAN DOG BOOKS TEA
第十回 りきゅうの撮影会
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 人間は写真好きと写真嫌いとにはっきり別れるけれど、我が家の飼い犬りきゅうは、小さい頃から写真が大好き。こちらの意図をわかったようにポーズを取ってくれるので、こんなに撮影しやすい犬はいまだみたことがない。それをいいことに、帽子をかぶせたり、スカーフを巻いたり、サングラスをかけさせたり、ぬいぐるみをくっつけたりと、りきゅうが元気な時はこちらがさんざん遊ばせてもらった。
 先日、りきゅうが小さい頃からなつき、写真を撮って貰っているフォトグラファーの武井哲史さんが見舞いに来て下さった。ちょうどその日はデザイナーの岡本裕子さんもいっしょだったので、久しぶりにりきゅうの写真を撮ろうと言うことになった。今では寝たきり老犬のりきゅうだ。病床で? それもちょっとなあ・・
 
 彼らがバックに選んだのが、我が家に伝わる広重の屏風だった。引っ越しの際に表装をしなおして、ちょっと風情がなくなってしまったけれど、四季の移り変わりを各地の風景で表す扇面画だ。

「この前でりきゅうを撮ろう」

「へっ、この前で・・・?」

 18歳を過ぎ、目は見えず、歩くことさえできなくなったというのに、「写真をとろうね〜」と声をかけると、目力が湧いて、白くにごった瞳をきらきらさせる。

りきゅうはもうポーズをとれないので、やむなくそのまま寝かせたところ・・・シャッター音がしてくると、きっと首をあげカメラ目線になった。おお、りきゅうちゃん、その調子だよ!

 
「シュールだなあ、神がかっているよ」

 ファインダー越しにカメラマンが言う。明らかに自分がモデルであることを意識しているような表情をするりきゅう。

 いったいどういうことだ???これは!

 

 その後、ピエタもどきのポーズをとるため私まで動員されたが、完全にりきゅうの勝ち。 聖母役の私の役不足ばかりが目立つ写真とあいなりました。

  こんなこともいつまでできるかわからないけれど、りきゅうの生命力は想定外に強いから、来年、19歳の記念撮影ができるとよいと思っている。