平野久美子 TOP TOPICS JORNEY TAIWAN DOG BOOKS TEA
「ロングステイ」台湾編Part1 ロングステイ キャリアを生かして地域貢献する
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  定年退職後の人生を海外で過ごしたいと希望する人は多い。だが、観光気分の延長だけでは、時間もお金ももったいないような気がする。海外ロングステイは、人によって向き不向きがあるし、日頃から「暮らすように旅をし、旅をするように暮らす」習慣がついていないと、長続きしない。 そこで、私の考える道楽精神をそのままロングステイにあてはめることをお薦めしたい。実のある海外リタイアライフが過ごせるか否かは、心の持ちようにかかっている。
                 
 2006年2月から、台湾政府が日本人リタイア族のためにロングステイ・ヴィザを発給し始めた。まだ日が浅いため、日台双方とも手探りしながらの事業ではあるが、人気は確実に上がっている。政府に先立って、2002年から計画を立ち上げ、台湾ロングステイの発祥地となったのが中部南投県の埔里市である。山ふところに抱かれ、水と空気がよく、お茶、山菜、紹興酒、花の産地として知られ、名勝日月譚、廬山温泉、桜の名所霧社にも近い。以前、アメリカの雑誌が実施した「世界で最も住みやすい街」アンケートで上位を占めたことから、日本のリタイア族に安全で快適な住環境を提供しようと、事業に乗り出した。
 2006年2月、早くも一組が埔里でロングステイを始めた。このご夫婦はもともと台湾で静かに湯治でもしようと思っていたらしく、熱烈歓迎がお気に召さなかったらしい。ご当人たちが願っていた静かな生活が守られない、事前に聞いていた環境とは違う点があったことを理由にわずか1ヶ月ほどで離台。受け入れ側の関係者は出鼻をくじかれ、大きな試練に直面した。

 第一号のご夫婦には気の毒だが、彼らの名字をとって今でも「XX事件」と呼ばれている。「事件」とはまたなんと大げさな・・・と思うだろうが、それほど大騒動になってしまったのである。たまたま私は台北に滞在していたため、過熱する報道を目撃したが、どう考えても双方に非があると言わざるを得ない。日本人夫婦には異文化を理解しようという気持ちや相手の立場を考える「基本姿勢」が欠けていたように思えるし、日本のワイドショーよりえげつない台湾メディアの報道の仕方には大いに問題がある。(このことはまた別の機会に譲る)。
  この苦い体験を埔里市はどのように活かしたのか? 今年の4月に訪れたところ、バイクから自転車への乗り換えによる大気のいっそうの浄化、交通マナーの向上、街路の清掃、植樹、野良犬の収容まで、市街環境が好転していた。第一号となった日本人が口にした不満を進化への糸口としたのである。反対意見はあるにせよ、野良犬と人間が共生できる、優しい台湾、生活の匂いが充満している台湾が好きな私は、一抹の寂しさを覚えたほど。そこまで日本人のケッペキ感を意識しなくても、私たちが台湾の流儀に合わせればよいのに・・・。 こんな質問を、企画運営にあたる埔里鎮公所の卓振祥課長にしてみた。
「すべてを日本人のニーズに合わせるつもりはありませんが、公共道徳や衛生観念など、学ぶべき点が多いので取り入れたのです。日本人から合格点を貰えれば、どの国のロングステイヤーが来ても問題ない(笑)」
 そりゃあそうだ、やっぱり台湾人はしたたかですねえ。


 「日本人にとって、台湾は暮らしやすいか?」と問われれば、私はYES,と即答する。 何と言っても日本から近く、気候が温暖で温泉もあれば桜も咲く。台風の季節(8月〜10月)をのぞけば、台湾の天候は温暖で、平均気温は7月で28度、1月で14度くらい。南部へ行けば、真冬でも20度を超えるほど過ごしやすい。気候ばかりでなく、治安、日本からの距離、医療設備、食事など、どれをとっても合格点がつくし、台北市以外、物価はまだまだ割安感がある。日々の暮らしやすさの基準となる「食」は、いわゆる油っこい「中華料理」とは違い、野菜や海鮮などの素材を活かした淡泊な味付けが多い。日本統治時代に改良した蓬莱米(ジャポニカ種)が主流だから、白飯や餅菓子にいたるまで違和感がない。外食費や食材、和食の材料が手ごろなことも大きなメリットである。 日本語がわかる親日家の人々と懐かしさの漂う街角が多い点も心がなごみ、日本人のロングステイヤーに対して、一般市民が熱き心で応えてくれる。こんな外国が他にあるだろうか。
日本語を習う台湾の人々(屏東市の長青学院にて)
日本人の相談も引き受けてくれる台南県のボランティア
 2004年から2005年にかけて、私は台北市にアパートを借りて住んでみた。
学生に戻って暮らそうと決心していたので家賃は5万円以内とし、高級マンションは最初から見向きもしなかった。一般的に、賃貸住居は家具付きのアパート(公寓。日本で言うマンション)がほとんどで、日本よりもずっと気軽に借りることができる。保証金(押金)はだいたい2ヶ月分だが、家主に対する礼金制度はない。賃貸物件を探すには、不動産店に依頼する他に、街角に貼ってある赤紙広告から家主に直接連絡する方法がある。人脈がものを言う台湾では、地元の知り合いに仲介してもらうことをおすすめする。物件を選ぶときは管理人やバスタブの有無、セキュリティー、水回り、家具の状態を比べながら選ぶようにするといい
ロングステイヤー香本さん。冷蔵庫には地元食材がどっさり。
 交通の便の良さと見晴らしの良さだけで選んだアパートは、「台北そごう」からすぐそばの忠孝東路4段。トイレとシャワー、テラス付きのワンルームだったが、「雅房」と呼ばれるルームシェア方式で、キッチンとリビングルームは共同使用であった。大家さんは日本料理店でフロアマネージャーをしていた女性。後にそこの日本人オーナーとけんか別れをし、その後は免税店で働いていたっけ。実に気の良いオバサンで、ゴミの分別法(生ゴミはブタのエサにするので一般ゴミとは別回収。燃えぬゴミの分け方も日本とは違い、ゴミ回収車に渡すときも種別によって日時が違う)から風邪をひいたときの漢方茶の差し入れまで、細々としたことに気を配ってくれた。そんなご親切に応えられるのは、日本から石原裕次郎のCDを買ってきて上げたことと、日本人経営者の下で働くキャリアウーマンの悲哀を聞いてあげることくらいだった。

 滞在中、国立台湾師範大学に通って中国語を習い、そのほかの時間は地方を回りながら戦前生まれの、いわゆる「トオサン」(多桑 日本語の父さんがそのまま台湾語になった)たちの取材にあてた。彼らのことは『トオサンの桜』(小学館刊)としてノンフィクションにまとめたので、ご興味のある方はぜひお読み頂きたい。
 友人たちに恵まれていたせいか、私の台湾生活は天国のように快適だった。最初の2ヶ月はお客様扱いされてしまうが、3ヶ月を過ぎて言葉も不自由しなくなるとがぜん面白くなった。ロングステイの醍醐味は、地元にどこまでとけ込めるかによって大きく変わる。
 先日、東京で観光局主催の台湾ロングステイの説明会が開かれたところ、定員をオーバーする100名近い参加者がつめかけた。日本側の盛り上がりに対し、台湾側は今後どのように受け入れ態勢を整えていくのだろうか? まだロングステイの経験者が少ないせいか、関係者の考えが日本側にはっきり伝わってこないせいか、全体像がつかみにくい。そこで、台北で政府関係者にインタビューをした。
 観光局の郭蘇燦副局長は、台湾の文化や生活を深く知る機会になって欲しいと言う。
「ロングステイの体験ツァーにまず参加して台湾を実感して下さい。日本で取得した免許証がこの9月から使えるようになりますから、台湾各地にも出かけて欲しい。目標ですか? これからの3年で180組くらい来てもらえれば嬉しいですね」
 観光局は台北市のほか、南投県(埔里、魚池、中興新村)、花蓮県、台東県(知本、鹿野)台南県、高雄県への受け入れを重点的に推進しているが、ほかにも魅力的な候補地がいくつもある。最南端の屏東県は戦前から日本との絆も深く、懐かしさが溢れている。珊瑚礁の海が広がる墾丁国家公園を擁する恒春半島なら、沖縄やフィリッピンに負けぬトロピカル・ライフが期待できるだろう。私は屏東県を、穴場のひとつと思っている。
 埔里には、その後も途切れることなく体験、視察ツァーが日本からやってくるため、今では街のいたるところで日本語教室が開かれ、日本語ボランティアの登録者数はすでに60名を越えた。鎮公所(市役所)では、日本語の相談窓口を設け、8〜17時まで対応している。地元日本人会が支援をするマレーシア、タイ、フィリッピンと違って、台湾では一般般市民が寄り添ってくれる。
 今後は高層アパートだけでなく、環境の良い地域に建つ一軒家へもロングステイヤーを迎え入れたいという。となればご近所つきあいも必要になる。互いの文化や習慣の違いから気まずさを生むこともあるだろうから、台湾語の日常会話を少しづつ覚え、コミュニケーションを円滑にしたい。地元の人と語学交換するのもいい。要は「郷に入りては郷に従え」。外国にいることを忘れず、誠実に接し、意思の疎通を日頃からしっかりとるよう心がけること。

 ロングステイ・ヴィザの期間は半年もあるのだから、一カ所に留まらず北から南までをのんびりと巡り、地方ごと民族ごとに多彩な顔を持つ台湾の魅力に触れるといい。また、温泉地に長逗留して心身を癒すのもおすすめだ。語学や絵画、書道、茶藝の習得に励むのも楽しいだろう。
 現在は、交通部(国土交通省にあたる)観光局が中心となって招致に努め、農業委員会(農林省にあたる)は協賛機関に名を連ねているが、他のアジア諸国やハワイとはひと味違うロングステイを目指したいと話すのは農業委員会胡忠一副処長である。
「日台の人的交流、技術交流が進んでくれることを望みます。外国人が日常生活に入ってくれば台湾社会の国際化も進みます。そのためには、各省庁を超えて横断的に支援体制を築いていかなくてはなりません。ロングステイは観光と違い、すぐに経済効果が表れるものではないので、長い目で計画に取り組んでいくつもりです」
  実は、ロングステイ・プロジェクトの背景には、台湾のWTO加盟がある。これにより、世界貿易を対等に行えるようになったが、中国を初めとする世界の農産品に対抗して競争力をつけなければならない。日本人ロングステイヤーを迎えることで農村の底上げを狙う。農業委員会が一枚噛んでいるほんとうの理由はこのあたりにありそうだ。
  取材が終わった後、台湾政府のキーマンたちから、どうすれば日本のリタイア族が台湾に来てくれるかを聞かれた。
「簡単でしょう? 元国民党軍の老兵の特権をそろそろやめて、ロングステイヤーの銀行の利子を18%にしたらいいじゃありませんか」
 私はそう答えた。まだ国民的な年金制度が完備していない台湾では、「栄民」と呼ばれる元国民党軍の老兵と公務員だけが、年金にあきれるほど高い18%の銀行利子をつけてもらっている。老兵たちは、蒋介石とともに大陸から渡ってきた国民党軍の人々で、1950年代に金門島や馬祖島で中共軍と実戦をした。法外な恩給ばかりでなく、病院での治療代もただ、亡くなれば配偶者にその権利が継承される。一方、農民や民間人にこうした恩恵はない。この社会の不公平を解消するのが、与党民進党の課題のひとつだ。


 今年の4月。私は台南県新営市でロングステイを始めた香本さんご夫妻を取材した。このときの話しはJTB出版局が発行する月刊誌「ノジュール」に書いてある。
月刊ノジュール公式サイト
 彼のようにキャリアを活かしてボランティアを希望する人は、事前に関係窓口や知り合いを通してじっくりと相談をしたほうがいい。香本頴利さんの場合は仕事で築いた人脈があったからうまくいったが、何もなしで飛び込んでもやはり難しいだろう。台湾政府は、今後同じようなケースが増えることを望んでいるが、まだ組織的にコーディネートしてくれるところまでは至っていない。とはいえ、ロングステイの方向性としては期待が持てる。
 私だって、リタイアして台湾に暮らすなら、大好きな台湾に何かご恩返しがしたいと強く思う。
「僕らの世代はただのんびりするよりも何か社会貢献がしたいと考えている人は多いはず。ハコものの充実よりも交流の場を提供してほしいと思います」
 そのとおり。ハワイやマレーシアのようなプール付き高級コンドミニアムやゴルフコースは要らない。台湾のためにボランティアしたいという熱き心の受け皿こそ、トオサンたちの次を担う我々世代の、新しい絆になるのではないだろうか。日本時代(1895〜1945)には光もあれば陰の部分もあった。外来政権による統治が続いてきた台湾の歴史を知る努力もし、彼らにも戦後の日本人が世界平和を希求してきた道を理解してもらい、互いの史実をしっかり認識した上で、友好を築いていけるといい。
日本人定年退職者を対象にした180日有効の数次ヴィザ。残存期間内に出国すれば、再び180日の滞在許可がとれる。
取得の資格
55歳以上の退職者で日本国籍を有する者
必要な申請書類
1.パスポート(残存期間が9ヶ月以上)
2.無犯罪証明(発行日から3ヶ月以内のもの)
在住地の県警本部、または警察庁で発行してもらう。約10日間かかる
3.5万米ドル相当の銀行残高証明
4.年金受領証明、または年金手帳
5.半年以上の海外旅行保険の加入証明書(医療保険と傷害保険を含む)
6.カラー写真2枚(4×5cm)
7.ヴィザ申請書
配偶者を同行する場合
年齢制限はないが、右記1,2,5の条件を満たしている者。
申請時に婚姻登録が記載された日本の戸籍謄本1通(発行から3ヶ月以内のもの)を添える。
60日間の「下見ヴィザ」
退職者(55歳以上)専用のヴィザ。必要な書類は1,4,5,6,7
諸費用
査証の手数料は ロングステイ、下見、どちらも8,800円
台湾の心=ホスピタリティーを売りにしている埔里市
日本人も多い市内のマンション。管理がしっかりしている
問い合わせ先
台北駐日経済文化代表処査証部東京都港区白金5-20-2 TEL:03-3280-7800  FAX:03-3280-7923
http://www.roc-taiwan.or.jp/
体験ツァーやロングステイ全般に対する問い合わせ先
台湾観光協会東京事務所TEL03-3501-3591 大阪事務所TEL06-6316-7491 
http://taiwan.net.tw
(財)ロングステイ財団 東京都東麻布1−28−2第六文成ビル2階TEL03-3505-4477
http://www.longstay.or.jp
台湾現地問い合わせ先
「台湾長宿休閑発展協会」に相談を。日本語可 台北市大安区羅斯福路二段105号3F-1
TEL 886-2-6632-9389  FAX 886-2-6632-9388 内線23