平野久美子 TOP TOPICS JORNEY TAIWAN DOG BOOKS TEA
原住民児童の澄んだ歌声に思うこと
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― 台湾原声童声合唱団コンサートに行って ―
8月1日に新宿文化センターで行われたブヌン族の児童合唱団は、台湾で大ヒットした空撮により台湾の名所を紹介する映画『看見台湾』のラストシーンで、玉山の頂上で歌声を響かせたあの子供たちの集団です。
東京公演はブヌン族の伝統的な狩の歌から、東日本大震災の応援歌『花は咲く』まで、16曲をブヌン語、中国語、日本語、英語を織り交ぜて歌い、聴衆を魅了しました。
子供たちの絶妙なハーモニーと玉山の大気のような澄んだ歌声を聞いて、中国から戻ったばかりの友人が「不信や裏切りのうずまくあの国で体験した嫌な思い出が洗われるようだ」と言っていましたよ。
ブヌン族は、台湾の16族の原住民の中でも少数派で、玉山山麓、南投県に暮らしています。原住民優遇政策で補助金がおりるせいか、人々の労働意欲はややもするとそがれ、昼間からお酒を飲む姿も見受けられます。
当然、家計は貧しく、子供たちはそんな大人を見てあまり将来に夢を抱いておりません。

台湾の原住民は、大昔から寄せては返す波の如く現れる外来政権のもとで固有の文化や言語、先祖代々の土地を奪われ続けてきました。同化政策のおかげで、自分たちは何者であるかという意識が薄くなってしまった時期もありました。

そんな中、ブヌン族の小さな学校の校長となったブクト・タスヴァルアンさん(指揮者)は、子供たちに誇りを持たせようと児童合唱団をつくり、送り迎えの世話から唱歌指導まで献身的にこなし、こつこつと育ててきました。
ブクト先生の指導のおかげで、学校に来たがらない子供たちまで登校するようになり、民族の歌を歌うことで自信をつけていき、各国を演奏旅行することで自らのアイデンティティーに目覚めていった聞いております。
子供たちに注がれるブクト先生の優しくも真摯なまなざしは、舞台上からも充分伝わってきました。

文化芸術は大切ですね。
コンサート終了後、日本の男声合唱団と記念撮影をするブヌンの子供たち、マスコミの取材を受けるブクト先生。
文化活動を通して確固とした民族の誇りが生まれれば、イデオロギーでの洗脳は難しくなるはずです。
そういえば、歴史学者の史明さんも、農村で説教をするときは必ず参加者とともにその土地に伝わる歌や踊りの輪に入るようにしているとおっしゃっておりました。
私が何度も訪れているバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)でも、人々はソ連の圧政下、当局の妨害にもかかわらず民族の踊りと歌の祭典を決してやめようとしませんでした。
民族衣装に身を包み先祖の魂を歌い上げることで、彼らは民族の誇りを維持してきたのです(そして今も続いています)。
私は同じ感動をブヌンの子供たちの歌から受けました。台湾原住民の歌や踊りは無形文化遺産に登録されてもいいほどの歴史的芸術的価値があると思います。

現在、私は仲間とともに台湾の世界遺産候補地を世界にもっと知らしめようという活動 (http://www.wh-taiwan.com/

をしております。ユネスコへの登録は政治の兼ね合いで困難でしょうが、台湾の人々が大切にしてきた古跡やモニュメントや建造物、そして大自然をもっと世界的にするために日台の力を合わせようというものです。
コンサート当日は玉山の紹介を兼ねてロビーでミニ写真展を開きました。休憩時間や帰り際に多くの方にご覧頂けて感謝しております。

「千里の道も一歩から」というように、なんでも継続が力になります。多くの方とともに夢を見る幸せを、この活動を通じて広めたいと思っておりますのでよろしくご協力お願いします。
「日本から台湾の世界遺産候補地を応援する会」のミニ写真展の様子