平野久美子 TOP TOPICS JORNEY TAIWAN DOG BOOKS TEA
お薦め映画です!「あこがれの空の下」
 
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Diversity という教育ビジョンに注目
先日、いつもの映画鑑賞仲間と渋谷へ出かけた。1本目は教育ドキュメンタリー『あこがれの空の下・教科書のない小学校の1年』(ユーロスペース)、2本目はセリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』(文化村ル・シネマ)と、はしごの予定だった。

しかし、1本目が期待以上に面白くて、日本の教育や未来を担う子供たちへの課題を考えさせられ、2本目の『燃ゆる女の肖像』を見る気が失せてしまった。もう1本はまた後日ね、ということで鑑賞後、自分たちの小学校時代を振り返りながら話が尽きなくて、気がつけば街はイルミネーションが耀き始める頃になっていた。
この映画は、ドキュメンタリーの優秀作をいくつも作っている『テムジン』がクラウドファンディングの力を借りながら、都内世田谷区にある私立和光小学校(創立1933)の教育活動を1年にわたってていねいに追ったものだ。このように書くと、お堅い内容に感じるかも知れないが、そこは型破りで創造的な授業を展開している学校が素材だけあって、単に初等教育の問題点だけでなく、今、私たち日本人が見落としているもの、私たちの社会に欠けているものを眼前に突きつけられたような内容になっている。
"あこがれの空の下“のビジョンは明らかに[Diversity](ダイバーシティ)であり、多様な考え方や生き方を受け入れられる人材を育てようとする姿勢だ。そのために教科書は使わず教師たち手作りの教材を使って授業が進む。子供たちには全国各地の伝統芸能に親しむ機会、隣国の文化を知る機会、先の戦争で唯一地上戦が行われ、現在も基地問題に揺れる沖縄の現状や琉球文化を学ぶ機会などが与えられ、それらの課題に向き合い、価値観の多様性を学んでいく。
興味深いのは、自分たちで決める能力を最大限に引き出そうとする教師側の試行錯誤で、工夫を凝らした授業風景に引き込まれる。回答の出せぬ生徒の疑問をみんなで考えるという授業のすすめかたは、ややもすれば遠回りに見えるだろう。しかし、みんなの前でわからないと言えることが、「子供の成長にプラスになっているのよねえ」と、ナレーションが入る。そう、この映画全体に響き渡る、温かで説得力のある女優高橋恵子さんのナレーションが秀逸なのだ。
観客は子供たちの傍らにいる気分で学びの場と四季を彩るユニークな行事を眺め、6年生の卒業旅行も映像をとおして疑似体験する。そこでの子供たちの成長ぶりは頼もしい。
映画を見終わって心配になってきたのは日本の社会のほうだった。多様性を尊重する教育を身につけた若者たちがやがて巣立つとき・・・・待っているのが前例主義の硬直した社会であってほしくない。若者たちの熱意や希望が、しょっぱい大海原に飲み込まれてしまう真水の一滴になってはならない。そのためには、社会や家庭も変わらなければいけない。Diversityという価値観を活かしてあらゆるジャンルで若者が活躍できるためにも。
○ https://eiga.com/movie/93919/

渋谷ユーロスペースで 12月19日より公開中