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お薦めです!『なぜ台湾は新型コロナウィルスを防げたのか』
 
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ジャーナリスト野嶋剛氏の最新著作『なぜ台湾は新型コロナウィルスを防げたのか』(扶桑社新書)を読んだ。読了直後の感想は、今、伝えなければならないことに向き合う著者の熱意と使命感だった。ジャーナリストとしての矜持と言ってもいい。タイムリーな話題に向けて、緊急出版と称して発売される書籍が本屋に並ぶたびに、見出しばかりがセンセーショナルでその内容にがっかりさせられることがあるけれど、本書は期待以上のものだった。
話は2019年12月から始まる。ネット上に現れた未知のウィルスに関するさまざまなキーワードをいち早く分析した台湾の公衆衛生、感染症、行政の専門家たち。30日に中国武漢市衛生健康委員会の報告書をきっかけに、感染爆発を確認した台湾政府は、未知の敵を迎え撃つ体制を翌31日には整えた。
台湾は2003年のSARSの大流行により、患者数674,死者数84と多くの犠牲者を出した苦い経験がある。もし、2020年の春節休暇の前に新型コロナウィルスの上陸を食い止められなかったら、SARS以上の犠牲者が出たことだろう。当時と比べて中国や世界との往来人口は比べものにならないほど増えているのだから。そこで台湾政府は公衆衛生や医療に詳しい行政マンをトップに据えて、果断に厳格な水際作戦を実施し、中国便と旅行客を遮断、検査と隔離体制を徹底させた。
思い切った施策が即実行できたのは、SARS以降感染症対策を見直し、法改正を次々行って盤石の体制を整えてきたからである。さらに言えば、日本統治下の公衆衛生政策かもらしっかと学んでいる。過去の経験からも智慧を継承し、それを活かした専門家集団が防疫の最前線で奮闘した。そうした彼らの国民に寄り添う人間味あふれる対応が、政府への信頼を高めてきた。文中にちりばめられた指揮官らの発言に、私は日本の現状を重ねてため息が出てしまった。
本書は、ITを駆使した情報収集と透明度の高い情報公開による隔離と検査を軸に、防疫対策を次々に打ち出して第一波のパンデミックを押さえ込んだ官民一体の奮闘ぶりが描かれている。そればかりか、WHOや中国の問題、アフターコロナ時代の日台関係にまで著者の目は行き届き、多くの示唆を与えてくれる。台湾をよく知る野嶋氏ならではの、多角的でバランスのとれた取材が功を奏している。後書きに謝辞を記してある台湾人の助手の方はそうとう優秀だとも思った。
新型コロナウィルスの感染拡大に歯止めがいっこうにかからぬ日本。その真っただ中であきらかになる特措法の欠陥、政府が繰り出すgo toキャンペーンのタイミングの悪さ。それに翻弄される私たちは対策へ疑問を持たざるを得ない。
それに比べて台湾はどうだろう。もし、今後第二波、第三波の流行が来ても彼らの防疫政策はぶれないだろう。私たちは見識に溢れた勇敢な隣人を持っている。謙虚に学んで欲しいとつくづく思う。