リトアニアの現在の面積は、ちょうど日本の東北六県を合わせたくらいのサイズで六万五千三〇三平方キロメートル。北はラトヴィア、南はポーランド、東と南をベラルーシ、西をバルト海とポーランド、一部はロシアの飛び地カーリングラード州にも接している。 首都のヴィリニュスは、旧市街が世界文化遺産に登録されているほど歴史が堆積していて、ゴシック、ルネッサンス、ネオクラシックなど各種の建築物が混ざりあい、教会もキリスト教、ユダヤ教、ドイツ派、ロシア正教とそれぞれが独自の空間を作り出している。今も昔も多くの外国人が住みつき、コスモポリタンな雰囲気があふれる街だ。私は、2010年12月に出版した『坂の上のヤポーニア』の取材のおかげで多くの人々と知り合い、観光で訪ねた時とはまったく違う印象を抱くようになった。 見知らぬ国の文化や人々の暮らしを垣間見たいと思えば、「食」の周辺をうろうろするのが手っ取り早い。市場を回ったりスーパーをのぞいたり、地元の食堂に飛び込めばある程度、生活は見えてくる。最も良いのは、1週間以上のホームステイ。生活者として日常食を観察すると、やりくりの技や好まれる料理法や食材、キッチンの必須アイテムまでが見えてきて、レストランの食事からは想像できない世界が拡がる。 とはいえ、ホームステイの機会はそうないだろうから、せめて現地で一般の家庭の味かそれに近い料理を体験できるようなチャンスに巡り会うことを強く願って旅をする。そうすると意外にも希望はかなったりするものだ。 2010年6月、私はリトアニアの首都ヴィリニュスのお知り合いのアパートでホームステイ体験をした。それまでは「寒いところの料理はカロリーが高すぎて口に合わない、リトアニアの料理はみんな似たような味がする」と勝手に決め込んでいた。 リトアニアの食生活をよく知らずに、じゃがいもやサワークリーム、ビーツ、豚肉ばっかりだとステロタイプなとらえかたをしていたのである。情報や体験の量が少ないと思い込みや勘違いを生むわけで、常に自省しなければならない。 で、ホームステイ体験だが、私がお世話になった家庭のメンバーは、40代のキャリアウーマンと一人娘の大学2年生と一匹の猫。シングルマザーの彼女は、司法機関に勤める国家公務員で大変な忙しさなのだが、残業はまずしない。必ず18時には戻ってきてきちんと夕食をつくるのには驚いた。彼らの友人たちも同様で、特別の日だけレストランへ出かける。生活が堅実なのだ。私は,何軒かの家庭料理やピクニックの食事まで楽しむ機会をもらったが、レストランの重厚な伝統料理とは大きく印象が違った。ヴィリニュスは都会だけあって食卓もコスモポリタン。各国の食材をうまく組み合わせている。歴史からみればポーランドの影響が強いのだが、どちらかといえばはデンマークやスェーデンの家庭料理のような印象を持った。以下は、へえ 〜、そうなんだあ、と思った事柄。