平野久美子 TOP TOPICS JORNEY TAIWAN DOG BOOKS TEA
山口香さんは正論を堂々と述べている。(女子柔道ナショナルチームの体罰問題に思うこと)
 
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柔道女子のナショナルチームへの体罰問題が世間の耳目を集めているが、2012年5月にサンフランシスコ在住の現役99歳の女子柔道家福田敬子さんの聞き書き自伝を「つよくやさしくうつくしく」(小学館刊)を取材編集し、日本柔道界の体質を垣間見た私は、「ああ、やっぱり・ね・・・」と、呆れながら報道を見ている。

2月7日付けの朝日新聞に筑波大学院准教授を務める88年のメダリスト山口香さんのインタビューが掲載されたが、まさに正論だと私は思った。「敬意なき指導者 人磨く『道』どこへ 暴力は言語道断」、「誰のための柔道か 彼女らは気づいた 自立を助けたい」という見出しからもわかるように、この問題の本質は、嘉納治五郎の精神から遠く離れてしまった日本柔道界そのものにある。そうしたことをきちんと指摘して発信し続けてきた山口香...さんに私は敬意を表している。日本の柔道界を変えられる数少ない指導者のひとりであることは間違いない。

昨年、アメリカの柔道関係者に何人も取材したが、彼らが異口同音に言ったのは日本柔道の根性主義、後進性、女性蔑視。女性には決して10段を与えぬ現状からもそれは伺えるだろう。(福田敬子氏は世界唯一の女性10段有段者だが、日本の講道館が与えたものではない。アメリカ柔道連盟から授与されたもの)

柔道はそもそもスポーツではなく護身用の武道であったから、スポーツ的な規範ですべてを糾弾するのはいかがなものか?という意見もあるようだが、それはおかしい。本来、精神の修養と肉体の鍛錬を兼ねる武道なら、さらに指導者の品格が問われるはずだ。柔道の生みの親の嘉納治五郎は「精力善用、自他共栄」をモットーに高潔な人格者の養成を講道館の目的に掲げてきたではないか。
現在、嘉納の教えは、皮肉なことに海外の柔道家のほうが大切にしている。そんな現状を福田敬子氏は「日本の柔道は眠っている」と表現していた。

欧米の柔道家たちはスポーツとして危ない技を制限したり、
スポーツとしての楽しさ、すばらしさを全面にだすよう工夫して柔道人口を増やしてきた。それに対して日本の柔道界は常に批判的だった。「お家芸」という狭隘なプライドで、勝たねば人間ではないような立場に選手を追い込み、体罰で強化しようなんて、ほんとうに情けない。山口香さんは、嘉納治五郎の精神を胸に、選手たちの側にたって奮闘してくれている。それを一部の週刊誌が柔道界の権力闘争だなんて、ちゃかしているのもいかがなものか。がんばってください、山口さん!